台湾映画が元気だ。30代の若手が続々と新作を発表、勢いに乗りたい海外資本との合作も次々と進行中だ。日本では今秋、若手世代を代表する「九月に降る風」がお目見え。大ヒット作「海角七号」も公開が決定した。今年6月に催された11回目の台北映画祭の取材を通じて、台湾映画界の現況を紹介する。【中村一成】

◇共通点に「自分探し」 「商業性と芸術性の均衡」も
 
映画祭は98年、当時の台北市長、陳水扁氏(後に台湾総統)の肝いりで始まった。先行する映画祭、台湾金馬賞が中国、香港を含む中華圏のコンペであるのに対し、台北映画祭は、あくまで国内映画の育成と発信が基軸だ。「90年代、台湾映画はどん底でした。だから中華圏全体ではなく、台湾のための映画祭を作ったのです」と、遊恵貞・映画祭ディレクターは語る。

今年は6月26日に開幕。映画祭主席は、台湾映画を世界に知らしめた傑作「悲情城市」のホウ・シャオシェン監督(62)。「今の若手はハリウッド的な方向に傾いているが、もっと目の前を見て、生活をテーマにして作品を作ってほしい」。ホウ監督は強調した。

上映作品は例年並みの約140本。オープニングは「陽陽」(チェン・ユーチェ監督)。フランス人を父に持つ少女の青春ドラマだ。他にも、色覚障害のある少女の成長物語「旅したことのない何処か」(フー・ティエンユー監督)などが好評だった。これらに限らず、台湾映画の多くの共通項は「自分探し」だ。「この世界に居場所を見つけるのがテーマ。それは台湾の微妙な立場に関連していると思う」とフー監督(35)。清朝から日本への割譲、植民地支配、解放後の国民党の圧政、国際社会での孤立……近現代史の記憶が作家に血肉化されているのだろうか。

若手監督のもう一つの共通点は商業性の重視だ。それは盛衰の歴史に由来する。台湾映画が世界に注目されたのは89年、「悲情城市」のベネチア映画祭グランプリだ。日本敗戦で植民地支配から解放された台湾に、大陸が送り込んだのは腐敗した集団。不満を爆発させた台湾人(本省人)に対し、国民党政府は激しい弾圧で応じた。台湾で長くタブーだった虐殺事件「2・28事件」を描いた同作は国境を越え、ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤン、アン・リーらが作品を次々と発表した。だが、その後、台湾映画は行き詰まる。「芸術性と商業性が分離してしまった。娯楽はハリウッドに食われ、アート系は行き過ぎて、客が離れた。今の若手に共通するのは、商業性と芸術性の均衡だ」。「陽陽」のプロデューサー、リー・カンさん(51)は語る。

「映画祭と、観客の好みは違う。ここ数年、デビューした監督に観客不在の芸術志向は少ない」。今秋公開の青春映画「九月に降る風」のトム・リン監督(33)は語る。ハリウッド映画のテイストを盛り込んだ映画作りが身上だ。そのトム監督が、もっともバランスの取れた映画と評したのが「海角七号」だ。

60年前の届かなかった恋文を軸に、引き直された国境と、世代をまたいだ物語が展開する。主人公は外省人が多い台北でミュージシャンの夢敗れた本省人の青年。音楽映画としても楽しめ、空前の大ヒットとなった。「日本の統治時代については、愛すべきか恨むべきか今も分からない。それを恋人たちの関係に濃縮した。歴史の断絶を壊したかった」とサミュウェル・ウェイ監督(39)。

◇中国との交流--経済的には希望、協働には否定的
 
◇「対日」の描き方に違い--表現の制約や、独自性の保持
 
今年の映画祭の特集都市はベルリン。映画祭とほぼ同時期に、台湾と中国の第1回交流委員会が北京で開かれた。あいさつでホウ監督は、東西ドイツを隔てた壁が崩壊して20年にちなみ、「台湾と中国、映画を通じた両国の交流が盛んになっている。文化を通じて、台湾と中国の隔絶を縮めたい」と今後の交流に期待を込めた。

台湾映画の復活にともない、大陸との合作も増えた。興行的には、中華圏での公開は資金回収の近道だが、若手は軒並み否定的だ。

問題は表現の制約、そして大陸は台湾のアイデンティティーを認めないとの思いである。日本統治時代への複雑な思いを描いた「多桑」の監督で、「悲情城市」の脚本を書いた呉念真さん(57)は語る。「経済的には、中国は台湾の希望にはなる。でもそれは私たちが独自性を保ってこそ。『貴方は貴方、私は私、でも友人』。だが中国はそうみるだろうか?」

台中の歴史的経緯の違いが浮き彫りになるのが対日表象。ウェイ監督の「海角七号」も外省人や大陸からは「植民地時代の描き方が感傷的」との批判も受けた。ウェイ監督は次回作で、日本植民地時代の原住民の抗日蜂起「霧社事件」を取り上げる。資金は大陸で調達する。「『海角』の後でそんなものを取り上げなくてもという人もいたけど、恨みの原点を壊したかった」。出資者には「レッド・クリフ」のジョン・ウー監督も名を連ねる見通し。

歴史とは、くめども尽きぬテーマの源泉なのか。台湾映画はこれからも、どんな作品を生み出すのだろうか。

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